金沢の工芸の現場を訪ねる
1.石川県伝統産業工芸館 〜いきなり、手仕事

>>> 石川県伝統産業工芸館

金沢の名高い兼六園の中に位置する工芸館。
観光スポットのまっただ中だけれど、結構人がいなくて落ち着いた雰囲気。
入口には、大勢の人の名札がびっしり展示されている。
これは、石川の職人さんたちのリスト。
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1階では、水引の体験がでる。
いきなり、手仕事をすることになり、一同とまどいながらも先生のいうとおりにやっていれば水引の基本の結び目は結構うまくゆくけど。
ただし、手順の誘導なしではできないので、やはり自分だけでできるようになるには時間がかかりそう。

館長さんに石川の工芸について概要を説明いただきました。
2階には伝統的な漆器や陶芸などなどが簡潔に展示されていますか、やはり人から直接説明してもらうと実感がわいてくる。
個人的には、ろうそく、毛針、花火など庶民生活に密着した工芸の展示が面白かった。
特に鮎の毛針は、精緻きわまりない手仕事で、パッケージなども必見のレトロデザイン。
花火は、玉の中身が展示されていた。
このブースだけでも知りたいことがいろいろと湧いてきた。
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1階にもどると工芸技術を集約した電話ボックスあり。
ミュージアムショップで、びりけんを発見。
びりけん、聞いたことがあるようなないような。
旅人にはとても不思議な存在。


2.近江市場 〜北陸の台所へ

>>> 近江町市場

まさしくアジアンマーケット。
人混みと怒涛のようなかけ声に圧倒される。
金沢といえば、伝統工芸、城下町のしっとりと落ち着いた、というイメージはありますが、ここにくればそのようななまはんかなイメージがぶっとび。
越しの人たちの熱気むんむん。
東京でいつも人混みにさいなまれていますが、ここの人混みの雰囲気はまるでちがう。
生活のため、生きてゆくための格闘や、スリにあってもだれにも文句言えないきびしさやうかうかしているとだまされそうないかがわしさ、計量器と新聞紙はずっと続いている人間のしくみ。
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都市の台所といえば、京都の錦。
錦市場は直線的で、主に野菜や漬け物。
ここ近江市場は、迷路のように道が縦横無尽に走る。
カニや近海の新鮮な魚は、市場全体を港のような荒々しさに巻き込む。
このなかの寿司屋ならさぞかしうまいだろう、とは誰でも考えること。やっぱりうまい!
たべたのはカニや魚がふんだんにのっかったちらし。
お昼のメニューで2500円なり。
そこで市の人から、この市場を再開発するという話を聞いた。
思わず、「やらない方がいい!!」という声があがる。
いまここでおきている人間くさい魚くさい混沌とした場が持っている雰囲気。これを残せるのだろうか?

私は是非とも残して欲しいと思う。
地元の人たちの生活の場を観光の場に変えていって、なんだかよそよそしくて、どこも同じ様な空間が今、日本中にあふれている。
みんながなにを大切に思っているかをもっと吟味してほしい。
もっとみんな参加して話し合う必要がある。
場所の所有者と利用者は同じくらい権利を持っていると思うのですが。

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3.九谷陶芸村 〜工芸の真髄に急接近

>>> 九谷陶芸村

金沢市内から小1時間ほど、小松方面へバスで行くとかの有名な九谷の地に到着する。九谷焼に関する資料館や展示、お店、そして若手の職人を育てる技術者自立支援工房などの施設が固まってある「九谷陶芸村」に入った。

まずは、副館長さんの案内で、資料館を訪問。入口近くで、冬の準備に松に竹をかけていた。この雪避けのデザインは、全国の雪国でもいろいろな方法があり、北海道などで見かけたものと随分印象が違うような気がした。樹木を傷つけずに神経を使って竹の棒をたてる様子は、まさしく職人芸だ。
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残念ながら、資料館内部は撮影禁止だった。海外では、博物館や資料館、美術館ですら、フラッシュ以外は、どこも撮影は自由だ。公的な場所であるということと、市民の権利を広く認めていることの違いだ。日本でも、最近はかなり自由になってきているが、ここの資料館がなぜ、撮影が不可能か、また、別の機会に聞いてみたいと思う。

写真では紹介できないが、九谷の真髄に迫る歴史的な作品が展示されていた。九谷がなぜ、華麗な装飾と金色の使用が多いか。それは、ここの土が本来くすんだもので、絢爛な装飾で土の色を覆い隠していたそうだ。北陸の場所がらから、古くから中国のデザインの影響を大きく受けてきた。唐絵や独特のキャラクターである唐子などの装飾は、今見てもとても新鮮だ。1800年代のパリ万博に九谷焼を展示して以来、平面的で、自由で、かつ緻密な意匠が、オリエンタルブームを巻き起こし、ヨーロッパの絵画、デザインに多大な影響を与えた。その後、九谷からヨーロッパへ輸出されたデザインは、オリエンタルな印象を強調したデザインが主流となり、今日の九谷焼の異国情緒あふれるイメージが形成されたのだ。

個人的には、九谷のデザインは金持ち好みという偏見があり、飽食、浪費の生活を満喫する現代の日本人の感性の求めるものかどうか疑問であった。しかし、緻密きわまりない職人の自己満足的な作品の中にも、自然をモチーフにした緻密だが楚々とした名品もあった。
特に「網の手」というパターンは素晴らしいと思った。

資料館を出て、九谷焼技術者自立支援工房に行く。豪華絢爛な伝統工芸である九谷のデザインについてあれこれ考えていると、突然とてもモダンで、シャープな時代感覚に訴える作品が並んでいた。この工房は、若手のクラフトマンのための施設で、全体的にとても自由で明るい雰囲気にあふれている。一時的に轆轤や釜を使うことができる一般の人向けの工房や、作家をめざす人のための一定期間貸切で使うことのできる工房が用意されている。
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4.九谷焼陶芸館−体験工房 〜本職のすごさを実感

そこで我々も絵付けに挑戦。

その一、
すでにある真っ白な器を選ぶ。絵を描きやすいものを選ぶか、もしくは、自分が生活の中でちゃんと使うものを選ぶか。各自、吟味してようやく選ぶ。

その二、
指導員から、顔料と筆と水の使い方とルールを教えてもらう。色は、スミから赤まで全部で7色。筆も、太さが3種類づつ用意されている。水は普通の水道水で、まったく普通の絵の具のように水で溶いて、使い、その後の筆も水洗いをすれば大丈夫なようになっていた。

その三、
まず、これから描く図柄を頭の中で、考える。これは確かに難しい。日頃からデザインという仕事をしている人間でも、はた、と考えてしまう。デザインとはその部分が職域として確立しているんだなあ、と妙に実感した。みんな頭をひねっているけれど、時間が限られているので、とりあえず、絵を描きはじめるといった感じだった。

その四、
簡単そうに見えて、やってみると大変なことは世間では良くある話。これも全く同じだ。
まず、絵の具の濃度のコントロールができず、たれてしまったり、色が混じって収集がつかなくなったりする。乾燥してから、引っかいて絵を描こうと思っていたが、乾燥するには時間がかかりすぎる。などなど

その五、
最終的に焼き付けるとどんな色になるか想像できないまま、なんとか仕上げる。それぞれ、人柄やモチーフに本人のテーマが反映されている。みんな、人の作品を見ながらあーでもないこーでもないなどど評価しあって、実に楽しそうだった。

その六、
あとかたずけ。これもなかなか楽しい。水で洗いながら、きれいにもとに戻す。手業仕事の真髄(!?)釜で焼いたものが後日送られてくるのが、実に楽しみ。吉とでるか凶とでるか。まさに賭博。
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5.加賀料理「魚半」 〜ご主人に聞く

魚半は、金沢の中心街、香林坊の中に路地にある。ご主人である武藤宏さんのお話は食材から加賀の文化について、前田家の歴史の話など、多岐にわたっていた。料理人から解説をしてもらいながら食事をするのがまた素晴らしい。魚半の歴史にちなんだ、加賀料理の流れやじぶなべの起源について。中でも、非常に珍しいゴリの活きづくりを前に、石川と福井にまたがるゴリの謎。さらに越前ガニの恋の話におよぶ。

他にも、甘エビはすべてメスだとか、中国では漆器の蓋を作らないなど料理に肉薄する話が続々と出てくる。料理は歴史や自然を反映したまさに文化そのものだと実感した。その上、その時その人たちとの一期一会の場を構成するとても重要な要素。そして、はじめて食べたゴリの生の味は、かりこりした歯ごたえと遠くでかすかににがさのある味は、生まれてはじめて体験するものだった。うれしかったのは、ゴリの箸おきをおみやげにもらったことだ。思い出の品としては最高なものだった。
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6.東町茶屋街1 〜夜の茶屋街をそぞろ歩く

魚半から雨上がりで路地が光っている夜道を、みんなで歩く。東町界隈は、かつて茶屋街だった面影を十分残していて、大変情緒あふれるところ。特に、浅野川のわきを格子の街並みが続き、えもいわれぬ安心感を覚える場所だった。店先や家々の暖かなあかりが、街全体にしっとり落ち着いた彩りを与えている。繊細な格子からもれる明かりもまた奥ゆかしい。日本中が煌々と照らされて、月も楽しむことができなくなってきた。
夜も安心という名の光の暴力の中で暮らしている大都会の人間にとって、久しぶりに味わう大人のあかりであった。
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7.かなざわカタニ 〜1万分の2ミリの恐怖体験

>>> かなざわカタニ

東町にある代々金沢箔を商ってこられたかなざわカタニさんのところで、またまた伝統工芸に挑戦する。入口には、なぜか化粧直しに使う油取り紙が売られている。カタニさんの社員お二人が、何も知らない大人たちに、丁寧にご指導してくださった。最近は子供たちが、学校の授業としてやってくることが多くなってきたそうだ。子供たちのデザインは大胆で、自由で、大人では考えられなかったような新鮮なひらめきがあるそうだ。そんなことをうれしそうに話してくれた。

ただし、作業は緊張感の連続。なんといっても、2ミクロン程の極薄のしろものを扱おうと言うのだから大変。鼻息だけで、くしゃっとなってパニックになる人や、薄紙がうまくはがせず、うろうろしたり、貼った金箔がしわしわになって意気消沈したり。なんだか、作品より体験者を見ている方が面白い。それでも社員お二人の辛抱強いサポートのおかげで、なんとか形になりました。

カタニという名前の由来は、もともと本名の「蚊谷」からきているとのこと。
部屋には、手入れをして大切に使われているぴかぴかの柱時計。外の街並みと同じように古いものを大切に使っている金沢の人の上品な生活文化をかいま見たような気がした。金沢の2つの川、浅野川と犀川は、白山山系の伏流水が流れてきており、昔から軟水の清流であったことから、金箔づくりにむいていたとのこと。油取り紙は実は、金箔の技術から来ていることを聞いて合点がいく。近年では、そうした技術をさまざまな現代的な製品に応用しているとのことだった。
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8.泉鏡花記念館、そして和菓子文化会館 〜鏡花を熱愛する人ならここ

>>> 泉鏡花記念館
>>> 菓子会館

この2つは、同じ敷地の中に併設されているので、一挙両得。繊細で美しい世界にどっぷりつかれます。

まず、泉鏡花記念館。建物は典型的な金沢の伝統的な町屋づくりを再現していて、その中庭はほっとくつろげる空間になっている。入口も個人のお家を訪問するかのような錯覚になる玄関。美しくわかりやすい展示。鏡花が大好きな人はその世界にどっぷりとつかれる。
ショップに売られていた「迷子札」ってなんだろう。

そして、和菓子文化会館へ。ここでどぎもをぬいたのが工芸菓子。これは必見もの。 よくもここまで。しかし、金沢人の執念とも言えるこの細かい芸当はすごい。落雁の型もおもしろかった。そして、和菓子のお買いもの。よりどりみどりで悩むのもまた楽し。結局、来年の干支にちなんだお菓子と、伝統の落雁を買った。
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9.「レピ・ド・プレ」 〜おしゃれな加賀フレンチ

東町の中になる優雅なフレンチレストランでお食事。
料理は治部煮を洋風にアレンジしたメインを中心に、盛りつけも麗しいおいしいコース。パンやバター、コーヒーなどの基本のものもとびきりおいしい。デザートの盛りつけは季節感あふれる自然の野草をモチーフにした美しいマロンテースト。
食器は昨日行った九谷のテイストを現代風にアレンジしたオリジナルで、そのデザインがとても優れもの。九谷の緻密さと伝統的な唐文様のモチーフ。和洋折衷というにはあまりに完成度の高い文化の融合に舌を巻いた。
その上、うれしいことにお菓子などと一緒になんとそのオリジナルの食器も販売していたので、おみやげにコーヒーカップのセットを買った。価格もとてもリーズナブル。ネット上で買えるととてもうれしいのですが(お店のご主人、このウェブを見たらぜひ、検討してください、お願いします)。
お店の名前は「レピ・ド・プレ」。
特に女性やカップルにとてもおすすめのお店だ。
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10.東町茶屋街2 〜昼の茶屋街をそぞろ歩く

日本の街並みはさまざまな理由で、各地で消えつつある。
世界的にもオリジナリティの高い風土が生んだ優れた美意識に裏付けられた総合的な生活空間だ。
浅の川あたりは「ひがし」と呼ばれ、「にし」の犀川河畔と一緒に公認されて開かれた茶屋街。昭和43年に金沢市伝統環境保存条例で保存され、平成2年の景観条例に受け継がれ、営々と市民によって守られてきたところだ。
金沢市文化財保護課の野島さんに案内してもらい街をあるく。
街並みは茶屋様式町屋が連なり、1階を揃いの出格子とし、背の高い二階建ての端正なたたづまいを醸し出している。格子は祇園格子よりも細かいそうで、金沢の伝統工芸の緻密さと合い通づるところがあると思われる。
街並みは当時のままを保存、改修しているが、それぞれの家はいろんな商売をしている。なんと、旅館があったり、カフェやワインバーがあったりして、内容的にも大人の街といった感じだ。いわゆるおみやげやさんばっかりがあるような街ではなく、都市住人のライフスタイルを反映させた現代に生きる街となっているところがとてもいいと思った。
さらに、お茶屋の造りを今なおとどめている金沢市指定文化財「志摩」を見学させていただく。客は上流町人や文人が多く、幅広い教養が必要とされたという。
一体となった建物内にてお抹茶を頂く。常時、ご主人がガイド、奥様がお抹茶を出されているということで頭が下がる。
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11.加賀友禅伝統産業会館 〜工芸の未来は?

>>> 加賀友禅伝統産業会館

旅も終わりに近づき、いよいよ兼六園へバスが乗り入れる。
兼六園のすぐ脇の加賀友禅伝統産業会館へ入ると、大勢の観光客に圧倒される。
加賀友禅の歴史は約500年前の梅染に端を発するが、この技法を基礎に、江戸時代中期に、宮崎友禅斉が絵画調の模様染めを指導したところから、加賀友禅が確立されたという。「加賀五彩」を基調にして描かれる花や植物、風景など自然をモチーフにした写実的なデザイン、武家風の落ち着いた気品が特徴だ。
地下の工房でハンカチ型染を体験。そのあと、事務局長の一塚さんから、加賀友禅について解説していただいた。
一塚さんの話はとてもわかりやすく、かつ、内容的にも深く大変勉強になった。現在、全国から若手の職人希望者が殺到しているという話が一番印象的だった。ついこの間まで、伝統工芸の後継者不足があたりまえだったが、最近は事態は急変しているようだ。そういえば、新潟の高柳町というところにある門出和紙の職人さんも、最近は職人になりたいと、北海道や九州など全国から、問い合わせが来ると語っていた。京都でも、若い人の弟子入り希望が増えていると聞いた。どうやら全国的な現象らしい。
今の若い人たちが、本当の豊かさ、生きがいを求めているのが伝わってくるすこし、希望のもてる話だと思った。
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